「私を連れて行ってはくれないのね」







私がそう言うと、彼は切なげに目を細めた。






























「君は、闇に染めたくない」

それは、私がグリフィンドール生だったから?
そんなの……
そんな事を言っても、もう無駄よ。
私はもう、貴方の所為で闇に染まってしまったもの。
貴方を愛したその時から、私は闇に染まったのだもの。

嗚呼、それなのに。

それなのに貴方は、私を置いて行くのね。

「何故?他の人は連れて行くのでしょう?」

そう問えば、彼は苦笑した。

「ほんの数人だけだよ。多くても邪魔になるだけだしね」

『そう……』と私は納得した様に相槌を打った。
だけど、本当は納得なんてしていない。
本当は疑問符ばかり脳で渦巻いている。

けど、

彼は決意している様だったから。
彼のルビーの様な美しい紅い瞳には、迷いが微塵も無かったから。
だからきっと、私が何を言っても無駄なのだろう。
だったら……

「だったら、私はずっと待ってる。
貴方が私を、いつか迎えに来てくれると信じて」

今は待っていてあげる。


だけど、


だけど貴方の準備ができたなら、どうか私を迎えに来て。
私はずっと待ってるから。
何があっても、何年経っても。
そんな想いを込め、私は言葉を紡いだ。
どうか伝わりますように。

ややあって、彼は不意に笑みを零した。
彼らしい、不敵な笑みだった。

「判ったよ、君が望むなら」

嗚呼、なんて残酷な男。
私の決心が揺らいでしまうではないか。
そんな笑みを向けられては、私は待てなくなってしまう。
だけど、貴方にこの想いが伝わったのなら我慢できるわ。
それは承諾の笑みでしょ?
必ず迎えに来る、そう伝えたいんでしょ?

……なんて、都合良く考えてしまうけど。
勝手に解釈して、勝手に待たせてもらうわ。
ずっと、ね。

「リドル……否、ヴォルデモート卿」

愛しい彼の名前を呟く。
そして私は、彼の真似をして不敵な笑みを浮かべる。
覚悟しなさいよ、と。
本当はただの強がりだったけど。
本当は泣きたくて堪らなかったけど。

だけど。

彼に弱い女だと思われるのは嫌で、悔しくて。
だから虚勢を張ってみた。
聡い貴方は直ぐ気付いた様だけど。

「  」

“愛してる”と言いたかった。
だけど、そんな陳腐な言葉じゃこの想いは表せなくて。
もっと適確に表せる言葉が欲しい。
だけど生憎、私は彼の様に賢くないから。
悔し過ぎる。

「ねぇ、

怪しげに光る彼の赤い瞳が、私を捕らえる。






嗚呼、そんな風に私の名前を呼ばないでよ。
愛されているのかと錯覚してしまうじゃない。
嗚呼、そんな風に私を見つめないでよ。
泣きそうなのがバレてしまうじゃない。

嗚呼、








そんな風に唇を近づけないでよ。












































彼の唇が私のに触れた瞬間、涙が頬を零れ落ちた。










ずっと待ってるから。君がこの先どんな道に進もうとも、私は君だけを。



(“いってらっしゃい”と言えるだけでも幸せかしら?)