ねぇ、聞こえる?



君に、僕の声が。



























「リドルの馬鹿!!あんぽんたんっ!!」

頬を膨らませて、君は言う。
そんな君の表情も愛しいと感じる僕は変だろうか?

「……怒っているかい?」

そっと問いかけてみる。
答えなど、聞かなくても判るというのに。

「当たり前でしょ!怒るなって言う方が無理だわっ」

ほら、やっぱり。
今回ばかりは簡単に許してもらえそうにない。
まぁ、いつも君に許してもらうのは簡単な事ではないけど。

…………ヨーグルト食べる?」
「なぁんでそうなる!?」
「いや、カルシウムが足りてなさそうだから……」
「大きなお世話だからッッ!!」

どうやら、火に油を注いでしまったようだ。
が外方を向く。

……ヨーグルト美味しいのに。

ただ、ヨーグルト一つで彼女に嫌われるのは忍びない。
どうしたらは許してくれるだろうか。
怒りで顔を火照らす彼女を見ながら、僕は思案する。


七割は僕自身に非がある事は認めるよ。
でも、残りの三割は彼女自身にも問題があるのだ。
仮にも恋人同士なのに、それらしい事をしないから。
僕だって我慢してきた。
ただ、愛しい人に触れたいと思うのは変な事か?
いや、うん。
まぁ……確かにちょっとだけ、本当にちょっとだけ、彼女を組み敷いてやりたい衝動
に駆られた事はあるが、その度理性で押さえつけてきた。
そんな僕に、褒美の一つくらい良いじゃないか。
悪戯心ってのもあったけれど……あまりにもが可愛いものだから、つい。
怒りに身を任せる君も可愛い、と言ったら、はどんな表情を僕に見せてくれるだろうか。
君はいつも、その表情の豊かさで僕を夢中にさせる。
嗚呼、この僕をこんなにも夢中にさせる事が出来るのは……





この世に君だけだよ。


「  」

ぴくり、と反応する君が愛らしい。
どんなに怒っていようとも、絶対に君は僕の呼び掛けに反応してくれる。
その事実が、どんなに強い媚薬よりも強烈だ。

「……何、リドル」

甘く、痺れる響き。
君が紡ぐその言葉は、どんなに神秘的な魔法よりも美しい。
ほら。
僕は君だけしか見えないみたいだよ、

「まだ怒ってる?」

聞くだけ無駄な事。
答えは判りきっている。
だけど、

「当たり前でしょ!?アンタってば、何の前触れもなく私にキ、キキキキキキキキキ」
「キス?」
「ッ……そう、それよ。す、するんなら一言くらい言ってからッ!」

聞かずにはいられない。
顔を紅く染める君が、何よりも可愛らしい。
だから僕は、態と君に問うんだ。

「一言あればしても良いんだね?」
「……え?……な、ば、ちょっ、違ぅ……ッ」

「キスするね」

「ッッッッ!!」

それは、甘く眩暈のするような口付け。
たった一瞬の出来事だけど、触れるような口付けだったけど。
僕の記憶には鮮やかに刻まれた。
君との思い出だけが、僕の記憶に色をつける。
ゆっくりと唇を離せば案の定、真っ赤に染めた君の顔。

「顔、赤いよ?」
「う、うるさぃ……。知ってる、から……」

そう言って俯く彼女。

ねぇ。
頬が赤いのは怒りから?
それとも羞恥心から?

……なんて、答えは判っているのに。
ただ、僕でも少しは不安になるんだから。
君からのたった一言が無いだけなのに。
その一言が、どんな宝よりも焦がれてしまう。

「ねぇ、僕のこと……好き?」

ほら、その愛らしい唇で紡いでよ。

「……好き














じゃないわ」

「………え………?」

「私は貴方を…………













愛しているの」


“時が、止まった。”
そんな錯覚に陥った。
君は、僕を魅了して放さない。
僕が君を放さないんじゃない。
君が、その甘い表情と言葉で僕を魅了するんだ。
そして、僕は囚われる。

「―…………僕も愛してる、































言葉の代わりにどうか、もう一度口づけを。



(本日三度目の口付けは、頬に受けた痛みと共に僕の記憶に刻まれた。)