言えない願いは、時として思わぬ幸運を呼び込む。 「望みは何だ?」 そう問われて思い浮かぶのは、全て邪なモノばかり。 『自由が欲しい』とか 『永遠の生が欲しい』とか 『富が欲しい』とか 『権力が欲しい』とか。 でも一番欲しいのは、望みを問うてくる貴方の愛。 それさえ私にくれるのなら、もう他に望むものなど何一つ無い。 そう。 貴方の愛さえあれば、私は富みも自由も生さえも捨てて良い。 …………だけど。 だけどこの願いは、貴方に言えない。 否、言ってはならないのだ。 言ってしまえば、きっと貴方は私を手放す。 冷たく光る赤い瞳は、私を軽蔑するだろう。 「。この俺が聞いているのだ、答えろ」 嗚呼、なんて俺様な男なのだ。 私は望みなど言えやしないのに。 「貴方様の望みが私の望みでございます、マイ・ロード」 貴方に言える願いなど、私は持っておりません。 一僕である私が貴方の愛を請うなど、甚だしいにも程がある。 こんな私が、貴方を愛する事自体卑しいと言うのに。 「……ふん。お前は昔からそうだ」 ……昔、から……。 そうね。 昔から私は貴方にこの願いなど言えやしなかった。 だけど、貴方だって昔からそう。 望みを問うて来るくせに、その真意を見せようとしない。 だから私は、いつも困惑してしまうのだ。 貴方の不器用な優しさに、私は期待してしまうのだ。 「…………何故……」 「ん?」 「何故貴方様は、私の願いなどお聞きになられるのですか?」 そんなの私は苦しいというのに。 私だけ特別だと思い上がってしまう。 そんな自分が、堪らなく嫌いだ。 嫌悪さえ覚える。 「……お前は、自分の生まれた日も覚えていないのか」 自分の、生まれた、日? 私が生まれた日……。 「今日はお前の誕生した日だろ。こんな日くらい願いを言え」 呆れたように、彼は言った。 その表情が、学生時代の彼自身と重なる。 嗚呼、もう。 苦しいよ…………。 私になんて優しくしないでよ……。 「……貴方は……私の願いを聞いてくれるのですか……?」 か細い声で、呟くように私は言った。 だけど彼には聞こえたようで、「ああ」と肯定する。 その時、私の中の何かが弾けた。 「ッ…………私は、貴方の愛が欲しいのです、ヴォルデモート卿」 もう、如何にでもなってしまえ。 私に望みなんて聞く貴方が悪いんだから。 軽蔑しようが、手放そうが、如何にでもなってしまえ。 「、それがお前の望みか」 「…………はい、マイ・ロード。私は死を覚悟で申し上げました。どんな罰もお受け致します」 「そうか。ならば……………… 俺の伴侶になれ、」 ……何を言っているのだ、この人は。 昔から嫌な冗談がお好きな方だ……。 でも……冗談でも嬉しいと思ってしまう自分がいる。 「言っておくが冗談ではないからな。これがお前に与える、永久に絶える事の無い罰だ」 「ッッッ!!」 目が……熱い。 視界が滲み、理解する。 私は涙を流している、と。 何年ぶりだろう。 頬を温かい雫が伝う。 「お前が望んだ事だ。もう、逃げられぬぞ」 大きな腕が、私を包み込む。 夢にまで見た貴方の腕の中。 そこはとても暖かく、優しかった。 「……逃げる気など毛頭もございません。貴方様こそ、覚悟しておいて下さいね」 私は貴方を絶対に逃がしませんから。 やっと叶ったんだもの。 この不毛だと思っていた長年の想いが。 |