「スリザリィィィィィィィィィィン!!」



組み分け帽子の声が、大広間いっぱいに轟いた。





私達に革命はいらない 01




ごちゃごちゃと煩かった組み分け帽子を傍らに居た教員に引き渡し、転入生は拍手の 中を平然とスリザリン寮の席まで歩いた。
一見少女のようにも見受けられるその転校生は、男子用の制服を着用している。
転校生はセミショートの漆黒の髪を靡かせ、ただ堂々と目的の場所まで歩く。
席に着くと、如何にも純血貴族風のオーラを纏った生徒達が転校生を迎えた。
彼らを一瞥すると、転校生は空いている席に適当に座った。

「やぁ。僕等は君を心から歓迎するよ、Mr.

紅い瞳の美少年が、微笑みながらに手を差し伸べてきた。
は彼を見上げる。
不気味な眼だ、とは思う。
血のように紅く、それでいて美しいなんて。

「……誰、アンタ」

紅い瞳の少年を、は怪訝そうに見遣る。
胡散臭い笑みだ、と思いながら。
そんなの考えが読めたのか読めていないのか、少年は更に笑みを濃くした。

「僕はトム・マールヴォロ・リドル、五年生。君のルームメイトだよ」

彼の言葉を聞いたは、ふーんと相槌を打った。
まるで、興味無いと言わんばかりに。
は目の前のご馳走に目を移し、適当に皿に盛り始めた。
そんなの隣に、リドルという少年は腰掛ける。
はその様子を横目で見ながら、チキンを豪快に頬張った。

「君はダームストラング専門学校に居たんだってね。何故ホグワーツに来たんだい?」

にっこり、と微笑みを絶やさぬままリドルは言った。
はぁ、と溜息を零すと、はリドルに向き直った。
不愉快そうに眉を顰めながら。

「何、アンタ。オレのストーカーか何か?悪いケド、オレは“そっち”の趣味は無いから」

今すごく機嫌悪いから放って置いてくれる、とは冷淡に言い、食事を再開した。
相当腹が減っていたのか、見る見るうちに食べ物が吸収されていく。
その様子は、自棄食いにも近かった。
そんなを見る周囲の眼差しは様々だった。
好奇の眼差しで見る者や憧れの眼差しで見る者、愚弄の眼差しで見る者や嘲りの眼差 しで見る者。
兎に角、の印象は彼らに深く刻まれたのだった。



 + + + + + +



宛がわれた部屋には、読書に耽る紅い瞳の美少年が一人。
は眉を顰める。
またコイツか、と。
そして、先程食事時に言っていた彼の言葉を思い出す。

『僕はトム・マールヴォロ・リドル、五年生。君のルームメイトだよ』

という事は、自分は暫らくの間この男と同じ部屋で過ごすワケか。
そう思って、は頭が痛くなるのを感じた。
取り敢えず気まずいのは御免なので、適当に愛想良く振舞う事にする。

「やぁ、えーと……リドル(だっけ?)。さっきはゴメンな、オレってば苛立ってて……」

パン、と本の閉じる音がの耳に届いた。
俯き気味だった頭をゆっくりと上げる。
すると、不気味な微笑みを浮かべた(少なくてもにはそう見える)リドル
が、を見つめていた。

「な、何……?」

嫌な予感がして、咄嗟に問いかける。
お願いだから変な答えだけはしてくれるな、と思いながら。
だが、今日のは運が悪いらしい。
災いが災いを呼ぶとはよく言ったものだ。
くすっ、とリドルは笑いを零してこう言った。



「君、女の子でしょ」



の脳内は一瞬、真っ白になった。
目の前の少年が言った言葉を脳内で何度か反復し、は漸く自分の現状を
理解する。

「は……はぁ?な、何アホっぽいこと言っちゃってンの?オレが女って……喧嘩売っ
てるワケ!?」

ハハハ、と乾いた笑みを浮かべ、は反論した。
だが、リドルは口元に余裕の笑みを湛え、そんなを楽しげに見ている。
目の前の紅い瞳の彼の様子に、は徐々に苛立ちを覚え始めた。
何もかも見通すようなその紅い瞳が煩わしい、と。

「大丈夫、僕は君が女の子だって知っている。だって、ディペット校長が教えてくれ たからね」

にっこり、と微笑んで衝撃的発言をするトム・リドルという名のこの少年。
思わず、は脱力した。
彼の話が本当なら、アーマンド・ディペットはとの“契約”を破った事 になる。
由緒正しき純血一族、家の次期当主であるとの“契約”を破 れば、ディペット氏にはそれ相応の罰が下されるであろう。
その事を想像するだけで、は頭が痛くなった。

(クソッ……!!あの無能オヤジがッ。あれほど他言は無用だと言ったのに……!! 転入早々にバレるって、どんだけ口が軽いんだっつーの!!)

胸中で悪態を吐きながら、は目の前の優等生を睨んだ。
だがリドルは全く動じず、それどころか更に笑みを濃くした。
ちっ、と小さく舌打ちをし、はゆっくりと口を開く。

「で?アンタはどうしたいワケ?オレの正体を全校生徒にバラす?」

嘲笑を浮かべ、は言い放つ。
鋭く光る、目の前の少年の紅い瞳を見つめ返しながら。
ややあって、リドルの表情が変化した。
穏やかな微笑みから冷笑へと。

「バラす?そんな事、この僕がする訳ないだろう?折角の面白そうな玩具なんだ、も っと楽しまないと……ね」

そう言って妖艶に微笑むリドルに、はぞくりと身震いした。
それは恐れか、或いはの血が騒ぐのか。

「……そ。バラさないんなら別にいいや。条件があると言うなら考えよう。オレにで きる事なら」

態と明るい口調では言った。
得体の知れない感情に支配されてしまわぬように。

リドルは一瞬無表情になったが、次の瞬間にはにやりと口元に笑みを浮かべていた。

「条件……か。そうだね…………君が僕の友人になるっていうのは?」

どうだい?とリドルは首を傾げた。
は彼の瞳を、暫らく見つめた。
血のようでもあり宝石のようでもある、紅い紅いその瞳を。
彼の真意を見極める為に。
ただ、この短時間で真意など見極めるはずもなく、は諦めたように頷いた。
はぁ、と溜息を吐きながら。

「友人、ね。……良いぜ、仲良くしようじゃねぇか。あ、オレの事はって呼ん でくれ」

挑むような笑みを浮かべるに、リドルはにやりと笑った。
嗚呼、面白くなりそうだ、と。









「よろしくね、