翌日、校内では転校生の話題で持ち切りだった。 ・とはどんな人物なのか、と。 そして、昨日の今日だと言うのに早くも仲良さ気に会話をするとリドルの関係 はどのようなものなのだ、と。 私達に革命はいらない 02「おい、すっげ視線感じンだけど」 「気のせいじゃない?」 痛いほど感じる好奇の視線に、・はサラダを突付きながらぼ そっと言った。 そんなに、リドルはパンにバターを塗りながら笑顔で答える。 彼の返答に若干不満を持ちつつも、は殺意ある視線じゃないから良いか、と気 にしない事にした。 それに、予想していなかった訳ではなかったし。 レタスを咀嚼しながら、は目の前の少年を見た。 整った顔立ち、甘い笑顔、柔らかな言動。 人々はリドルのそれに強く惹かれるのであろう。 その下に、酷く冷酷な本性を隠しているとも知らずに。 全く嫌な男だ、とは思う。 微笑んでいるくせに、その紅い瞳だけは笑っていない。 ただ無感情に、冷淡に。 彼に惹かれる人々も含める全ての人間を、虫けらを見るような眼で彼自身は見ている。 「……ごちそうさま」 「あれ、もういいの?」 「ああ……オレ、朝はあんまり食わないんだ。低血圧だから」 どうも食欲が湧かなくてさ、とは眠そうに欠伸をした。 そして、席を立つ。 「最初の授業ってなんだっけ?」 「魔法薬学だよ」 の質問に、リドルは考える素振も見せずに素早く答えた。 まるで、その質問をされる事が判っていたかのように。 そんな違和感を感じながら、は気付かない振りをした。 今はまだ、様子を見ているべきだ。 「オレ、魔法薬学って苦手なんだよなぁ〜」 リドルが席を立ったのを見計らって、は歩き出した。 スリザリン寮のテーブルを挟んで、二人は会話を続ける。 周囲の人物が、二人の会話に興味深げに聞き耳を立てている事に気付いていながらも。 「へぇ、意外……でもないな。差し詰め、得意な教科は飛行訓練かな?」 「お、判ってんじゃん。クィディッチなら任せろよ、オレ上手いからさ」 そんな話をしながら、二人は大広間から出た。 急に変わる温度に、は身震いをする。 セーターを着ていても、ローブを着ていても、やはり寒いものは寒い。 「ったく、なんだってヨーロッパはこんなにも寒いんだっつーの」 「そう?普通だと思うけど」 「そりゃ、お前……南の方に行った事ねぇからこの気温が普通だと思うんだ」 南は良いぞ〜、と。 リドルは隣でガタガタと震えながら歩くに、気になった事を問いかけた。 「君、南に行った事があるのかい?」 するとはリドルを見上げ、何度か瞬きを繰り返した。 そして、「ああ、まぁ……な」と歯切れ悪く返事をした。 そんなの態度に引っ掛かりを覚えるリドル。 訝しげに見てくる彼の視線に気付き、は「しょうがねぇな」と苦笑した。 「南ってほどじゃねぇが、それに近い国になら何度か行った事あるぜ。まぁ、最近は 行ってねぇけどよ。戦争とかで危ねぇからな、あちらサンは」 そう言って、どこか遠くを見るようには眼を細めた。 + + + + + + 「うぇー、これを刻めって言うのか?狂ってんじゃねェの」 心底気持ち悪くて仕様が無いと言いたげに、はピンセットで青虫を摘み上げた。 虫が苦手な訳ではないが、刻めとなれば話は別だ。 想像するだけで吐き気がしてくる。 そんなに、リドルは呆れたように溜息を吐いた。 「そんなんで魔法使いが務まるの?」 「なっ……魔法薬なんか作らなくたって立派な魔法使いになれるっつーの!! それに、オレが苦手なのは虫を刻むことだけだ。それ以外はできるっ!!」 鼻息を荒くして力説するに、リドルは笑いが込み上げてきた。 しかし、ここで笑ってしまうとがまた怒り出してしまう。 そうなれば面倒臭いので、リドルは平静を繕って作業を再開した。 黙々と作業を進めるリドルと青虫を交互に見つめ、は諦めたように溜息を吐き出す。 手元さえ見なければ良いんだ、と自分に言い聞かせ、はナイフで青虫を刻み始めた。 何とも言えない感覚が、の手にナイフを通して伝わってくる。 手元を見なくても同じなような気がする……。 そう思い、は泣きたくなってきた。 「、それぐらいで良いよ。あんまり刻み過ぎると液状になってしまうからね」 我に返り、は手を止めた。 そして、反射的に手元を見てしまう。 そこには、原形を留めていない青虫の残骸があった。 よく刻まれた、青虫だった“ソレ”。 うっ、とは顔を青くさせる。 「き、気持ち悪ぃ……」 口に手を当てながら、は蹲った。 朝食の原形を留めていないであろうサラダが、今にも胃から逆流してきそうだ。 リドルはやれやれと肩を竦め、と会話しやすいように屈み込んだ。 「情けないなぁ、前の学校でもそんなだったのかい?よく正体がバレなかったね。 君はそこで休んでて、邪魔だから。あとは僕に任せて」 くそっ、とは胸中で舌打ちをする。 こんな奴に情けない姿を見せてしまった、と。 目の前の少年にもムカつくが、何よりこんな自分にムカつく。 そう思ったら、自然と吐き気は消えていった。 残るのは四分の怒りと六分の対抗心だけだった。 「……いい、オレもやる。吐き気なんて飲み込んだから大丈夫だ、任せろ」 顔を蒼白にしたままは立ち上がり、作業を開始した。 あれ程気持ち悪いと言っていた刻まれた青虫も、正しい順序で大鍋の中へ入った。 それを見て、リドルは心底楽しげに口元に弧を描く。 顔色は悪くても、平然とした態度で作業を進める。 そんな“彼女”が余りにも逞しくて、自然とリドルは笑いが零れた。 「無理しちゃって。顔色悪いよ?」 「……煩い。話している暇があるんなら手伝え。それか何処かへ行け、邪魔だ」 機嫌が悪そうには言う。 そんな彼女に肩を竦めながら、リドルは作業を再開した。 二人の連携作業は素晴らしく、息がぴったりと合っている。 薬品が出来るのに時間はかからなかった。 「ほっほう、素晴らしい!!トムとの魔法薬は大成功だ!スリザリンに二十点!!」 ホラス・スラグホーン教授のその言葉にリドルとは顔を見合わせて、同時に にやりと笑った。 スラグホーンの賛辞など、今の二人の耳には入らない。 こんなに息の合ったパートナーは初めてだった。 「オレはアンタを少し見くびってたぜ、リドル」 「君こそ、案外根性があるんだね」 女にしては、という言葉は飲み込む。 でないと、きっと彼女は怒り狂うだろう。 そんなを宥めるのは骨が折れそうだ、とリドルは苦笑した。 「アンタとは上手くやっていけそうかも」 「君とは楽しく過ごせそうだよ」 二人は同時に言ってお互いの言葉を理解すると、これまた同時に笑い出した。 そんな彼らに、流石のスラグホーンも驚いて賛辞を止める。 周囲も彼ら二人を不思議そうに見ていた。 ただ、本人達はそれに気付かず、止めが入るまで暫らく笑い続けていたそうだ。 |