毎晩、同じ夢を見る。
何かに呼ばれる夢。
決まって俺は、気付けば何処かの森に佇んでいるんだ。
そして、数メートル先には月光に照らされる人影が。
背恰好からして少女だと判る。
銀の髪を靡かせて、その少女は美しく立っている。
その姿はまるで、月の女神のようだった。
毎回、その姿に心奪われる。
その人物の顔を見る為、俺はゆっくり歩む。
もう少しで彼女の顔が見られる―……




そこで俺はいつも目覚めるんだ。




Melodia 01




「どうしたんだい、パッドフット?最近やけに静かじゃないか」

朝食の席でジェームズが心配そうに―……ではなく、楽しそうに言う。
にやにやと厭らしく笑っている。
気味が悪……いのは元々か。
なんか答えるのも面倒だから、適当に相槌を打つ。
そんな態度の俺にジェームズは「なんだよぅ。シリウスってばノリ悪いわ〜」とか、妙に身体をくねらせながら肘で小突いてきた。
……キモイんだけど、本気で。

「誰か……エバンズ連れてきてくれ……」

朝からジェームズのテンションにはついていけない。
この暴走鹿を止めることが出来るのはあの女しかいない。
俺は脱力しながら呟く。
俺の口から『エバンズ』の名を聞いたジェームズが隣で煩い……。
こっちは只でさえ寝不足で苛ついてるっつーのに。

「シリウス、顔色が悪いよ?大丈夫かい?」

リーマスが(今度は本当に)心配そうに聞いてきた。
隣ではピーターが肉を切るのに苦戦している。
……アイツ等の隣に行きてぇ。
少なくとも、ジェームズの隣だけは今は御免だ。

「ああ……寝不足なだけだ。……俺、もう一眠りしてくる」

そう言って俺は、食べかけのパンを残し席を立つ。
リーマスとピーターが心配そうに見上げてくる。
ジェームズは…………またエバンズにちょっかいを出していた。
至極迷惑そうなエバンズの気持ちが、今なら判る気がする。
ご愁傷様、と呟いて俺は大広間を出た。





大広間を出ると、一人の少女が隅の方で蹲っているのが見えた。
ここで見捨てるほど、俺は落ちぶれていない(寧ろ上々だ)。
急いで少女の元まで駆け寄る。

「おい、大丈夫かっ?」

いや、大丈夫じゃないから蹲ってるんだろうケド。
取り敢えず聞いてみると、少女は少し身じろいだ。

「い、いつも、の……発作、ですから……だい、じょうぶ……」

そう言って少女は立ち上がろうとするが、ふらついて上手く立てないようだ。
息も荒くなっていき、見ているだけで痛々しかった。
思わず俺は、彼女の身体を支えた。
すると少女が俺を見上げてきて、弱々しく微笑んだ。

「あ、ありがとう……」

少女の声は小さかったが、確かに俺には聞こえた。
「ああ」と相槌を打って、俺達は保健室に向かう事にした。
少女の身体の細さに、内心驚きながらも。





「すいませーん!!誰かいませんかぁー」

って言っても、養護教諭じゃなきゃ意味が無いんだけどな。
中に入ってみても、人が居る気配がしない。
参った。
正直どうすれば良いか判らない。

「……取り敢えず此処で寝ててくれ。俺はマダム・ポンフリーを探してくるから」
「あ、大丈夫です。少し……落ち着きましたし。本当にありがとうございました」

深く少女が辞儀をする。
……なんつーか、律儀だな。
そして気付く。
こんな美少女、この学校に居ただろうか?と。
艶やかな黒髪には思わず目が惹かれ、深海のような青い瞳には心が奪われる。
人形のような白い肌に、端整な顔立ち。
仄かに頬が桃色に染まっているところも、見るものに可愛らしい印象を与える。
これ程の美少女なら、俺が知らないはずがない。
それが例え、他学年であっても。

……っと、つい見とれてしまった。
少女が不思議そうな表情で見上げてくる。

「えっと……私の顔に何か付いてます……?」
「べ、別に……。あ、じゃあ俺、行くから…………お大事に」
「あ、はい……。ありがとうございました」

あ、また辞儀した。
……真面目な子なんだな……。
頭を下げる彼女を横目に、俺は保健室を出た。

なんだろう、この気持ち。
何故か彼女が懐かしいと感じた。
今まで会った事も話した事もないのに。
それとも……何処かで会っていたのか?

ま、いいや。
もう一眠りしよ。













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