「よぉっ、!!ここの学園生活はどうだ、楽しんでるか?」
「ああ、お陰様で。退屈しない生活を過ごさせて貰ってるぜ、レナルド」

スリザリン寮では只今、転入生であるの歓迎会が行われていた。
が転入してきてから数日経っていたが、リドルの呼び掛けで歓迎会を
行おうという事になったのだ。

にこにこと嬉しそうに話しかけてきたレナルド・クラークに、はにや
りと口の端を吊り上げた。
レナルド・クラークはと同じ五学年だ。
リドルと仲が良いらしく、はリドルを通じて目の前の少年と知り合った。
スリザリン生にしてはどの寮生にも人当たりが良いレナルドは、リドルの次
に女子達にモテるらしい。
確かにな、とは密かに思う。
リドルほど端整な顔付きではないが、彼が浮かべる笑みには自然と人を惹き
付ける何かがあった。

「今日はお前の為の祭りだっ!!存分に楽しめよ」
「お前もな。…………おい、そういえばリドルは?」

リドルの姿をキョロキョロと探す素振をしながら、はレナルドに問い
かけた。
そういえば見ないな、とレナルドもに釣られて紅い瞳の端整な顔の少
年を探し始める。
だが、彼は談話室では見つからなかった。





私達に革命はいらない 03




歓迎会がお開きになりが部屋に戻ってみると、リドルがベットの上で
優雅に読書をしていた。
その様子に、は思わずムッとなる。
探していた自分が馬鹿みたいじゃないか、と。

「おい、なんで来なかったんだ」

が声を掛けると、リドルは本から顔を上げた。
だが、すぐに興味が失ったようで、再び本へと視線を戻した。
その様子に、またもはムッとする。
しかし、リドルが何か言おうとしているのを感じ取り、無言で待った。

「行ったよ。けど、少し疲れちゃってね。部屋で休んでいたんだ」

器用にも本を読み進めながら、リドルはしれっと言った。
その言葉に、は沸々と湧き上がる何かを感じた。
態度もムカつくが、自分以外の人間を蔑ろにする奴の性格にも腹が立つ。
は急に頭が冷えてくるのを感じた。
自然と、彼女の視線が鋭くなっていく。
元々は目付きが悪い方だったが、それに更に拍車がかかり睨んだだけ
で人を射殺してしまいそうな鋭利な目付きになっていた。

「…………あっそ。アンタはオレを歓迎してくれない訳だ」

ふーん、と腕を組み、は自分のベットへと向かった。
すとん、と腰を下ろし、は腕を組んだままリドルを睨みつける。
リドルはそれに気付いているのか否なのか、全く動じずにいる。
その態度に、更にの苛付きは増す。
がそのまま黙って睨んでいると、リドルが急に溜息を吐いた。

「別に歓迎していない訳じゃないよ。ただ……」
「ただ……?」

口籠るリドルに、は続きを促す。
リドルは暫らく迷っていたようだが、決心がついたらしく本を閉じた。
そして、身体ごとの方を向いた。

「…………人ごみが苦手なんだ」

彼の言葉に一瞬は呆気に取られたが、次の瞬間には盛大に噴出していた。
だから言いたくなかったんだ、と拗ねるリドルを見て、の笑いは更に
大きくなった。

「ひー、脇腹が痛ぇ。天下無敵のリドル様にも弱点はあるんだな」

そう言ったは、酷く嬉しげだった。
そんな様子の彼女に、リドルは不機嫌さを隠し切れない。
苛立ったように本を台にして頬杖をつき、を睨みつけている。
それが酷く愉快だったようで、は先ほどまでの不機嫌さが嘘のように
機嫌良くにやにやと笑っていた。

「……君にも弱点はあるだろ」
「は?オレに弱点?そんなのねぇよ」
「虫を刻むのが苦手なのは弱点にならないの?」

にやり、とリドルが不敵に笑う。
図星を突かれ反論できずにいるは、誤魔化すように彼から眼を逸らした。
その様子に、益々リドルの笑みは深くなる。
そんな気配を感じ取ったは、気を取り直すようにコホン、と咳払いをした。

「じゃあさ、改めて歓迎会やってくれねぇか?アンタが考えた企画だ。責任
は取れよな」

口元に弧を描くに、リドルは眉を顰めた。

「でも、今からじゃ人は集めない。それに、後日また改めてって訳にもいか
ないだろう。既に一回、歓迎会は行った訳だし……」



「バーカ」

呆れたようなの言葉に、リドルの眉はぴくりと反応した。
“馬鹿”と言われなれていないリドルの事だ。
彼の矜持に少なからず、の言葉は効いただろう。
リドルの反応を見たは一瞬「しまった」という表情をし、気まずげに
言葉を紡ぎ始めた。

「だ、だからな、態々ミンナを集める必要はないんだ。別に歓迎会ってのは
二人でも出来るんだから、さ」

の言葉で、リドルはやっと理解した。
彼女は自分と二人で歓迎会がしたいのだ、と。
細かく言えば、歓迎会に出席しなかったルームメイトに改めて祝って欲しい、
という意味なのだが。

「だ、ダメか?」

が不安げに、紅い瞳の優等生に問いかける。
固まっていたリドルはの問いで凍解し、コクコクと首を縦に振った。
首肯したリドルには表情を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。

初めてだった。

彼女がリドルに対し、こんなにも綺麗な微笑みを見せたのは。
今までは“にやり”などの不敵な笑みや、リドル以外の対象に向ける笑みだ
けだったというのに。
自然と、彼の口元に笑みが浮かぶ。

「さ、今夜は語り合おうぜっ」
「……仕様が無いな。君の大好きな魔法薬学の虫の刻み方について教えてあ
げようか」

せめてもの仕返しに、リドルは彼女が嫌がるであろう話題を選んだ。
案の定、にっこりと微笑むリドルに反比例し、の顔は蒼褪めていった。

その夜、彼らの部屋からは楽しげな話し声が絶えなかったという。



 + + + + + +



くぁ〜、とが大きく欠伸をした。
昨夜紅い瞳のルームメイトと盛り上がりすぎたは、どうやら寝不足ら
しかった。
もう少し早く寝ていれば良かった、とは今更ながら悔やむ。
の隣には、本当に寝不足なのかと疑いたくなるほど爽やかなリドルが
静かに読書していた。
本当に外面だけは良いな、とは呆れたように隣の美少年に目を向ける。
ムカつくほど端整な顔立ちのリドルは、何をしても様になった。
きっとゲロ吐く姿も様になるんだろうな、と下品な事を考えてみる

「よぅ!!今日も麗しいな、お二人さん」

そう戯けたように言うのは、彼らの友人であるレナルド・クラークだった。
とリドルは同時にレナルドに眼を向けた。
余りにも二人の息がぴったり過ぎて、思わずレナルドは噴き出しそうになる。

「……レナルド、朝からウザ過ぎ。リドルが麗しいのは判るけど、オレまで
入れないでくれ。社交辞令はウンザリだ」

眉間に眉を寄せて、は迷惑そうに言った。
その言葉に、本に眼を戻そうとしていたリドルが眉を顰める。
レナルドは酷似した二人の表情を見て、またまた噴き出しそうになった。
だが、拳を握って何とか乗り切る。
ここで笑えば、彼ら二人の怒りが自分に降りかかって来る。
それだけは勘弁だ。

「社交辞令?……君、鏡見た事あるかい?」

呆れたようにリドルが言った。
そんなリドルにむっとしつつもは、あるに決まってんだろ、と口を尖
らせながら言う。
噛み付くように言ったに、思わず苦笑が零れるレナルド。
リドルに至っては鈍すぎるに呆れ、突っ込むのも億劫になって読書を
再開した。

「自覚があるより自覚が無い方が嫌味だよね」

ぼそり、と言ったリドルに、耐え切れずレナルドは噴き出した。
行き成り笑い出したレナルドにぎょっとし、は眼を見開く。
そんなの表情が面白かったのか、レナルドの笑いは更に大きくなった。
は腹が立って何か言い返そうとしたが、他の生徒達が入ってきたのに
気付き、拗ねたように頬杖をついたのだった。