「いい加減機嫌直せよ、
「煩い男は嫌われるぜ、レナルド」

情けない顔での機嫌を直そうとするレナルドに、つんけんとした態度
で彼に言葉を返す
そして、そんな二人を無視しながら本を読み進めるリドル。
三人は今、変身術の教室へと向かっているところだった。
そんな彼らを遠巻きに見ている無数の生徒達。
その視線は多種多様で、熱っぽい視線もあれば敵意剥き出しの視線もあった。

(くそッ、視線が集まって息苦しい……。言いたい事があんなら面と向かって言えっつーの)





私達に革命はいらない 04




「物に当たらない」

乱暴に教室の扉を開いたに、リドルが窘めるようにそう言った。
むっとした表情で、一番後ろの席まで行く
苦笑して肩をすくめるリドルとは反対に、レナルドはおろおろとしていた。

「どうしたんだい、?」

の隣に座りながら、リドルは苦笑した表情を変えぬまま彼女に問うた。
ちらり、とリドルを見て、険しかった表情を少しだけ和らげる。

「いや……大した事じゃねぇンだけどさ」
「うん」

真剣に話を聞こうとしているリドルの姿勢に、は腹立たしい気持ちが
消えていくのを感じていた。
柔らかく微笑んだに、心臓が跳ねたのは誰か。
リドルは目を見開き、レナルドは頬を朱に染めていた。
しかし、の正体を知らないレナルドは、直ぐに我に返って頭を振る。
俺は至ってノーマルだ、と。

「視線がな……痛いんだよ。転入生が珍しいのはわかるけど、少し…………参る」

その時、二人の女生徒がたちの前に来た。
はにかんで俯くその姿は、少女らしくて可愛らしい。

「あ、あのっ……さん!!」

女生徒の一人が、頬を染めて口を開いた。
急にフルネームを呼ばれたは、驚いてぱっと姿勢を正す。
一体何事なんだ、と。

「は、はい?」

引き攣った笑みを浮べながら、は目の前の少女達に返事をした。
すると彼女達はキャー!!と黄色い声を上げながら顔を見合わせた。
その様子を戸惑ったように見ているに、リドルは密かに苦笑を漏らした。

「こ、これっ……!!」

依然、頬を赤く染めている二人の女生徒のうち一人が、に何かを差し
出してきた。
封筒らしきそれは、女の子らしい花柄だった。
何だコレ、と封筒を食い入るように見るに女生徒はさらに赤面する。

「よ、読んで下さい!!」

そう言って女生徒はに封筒を強引に渡し、もう一人の女生徒と一緒に
走り去っていった。
唖然としてそれを見送る
手には花柄の封筒が、弱く握られていた。



リドルに呼ばれ、はっと我に返る。
頭を横に振り、は手元の封筒を見つめた。

「もしかして…………果たし状…………?」

の呟きを聞いて、リドルとレナルドは顔を見合わせた。
そして、リドルは溜息を漏らし、呆れたように肩を竦めてみせた。
レナルドも、どこをどう見ればそうなるのかと、思わず苦笑を漏らす。
そんな彼らの視線を感じ取って、は封筒から二人へと視線を移した。

「な、なんだよ」
「……はぁ、君は鈍いのか鋭いのか分からない人間だね」
「ああ。俺もその解釈はどうかと思うぞ、
「だからさぁ、何なんだよっ」

リドルに続いてレナルドまでもが、に哀れみにも似た言葉を投げかけてくる。
そんな二人に対して苛立ちを覚えながらも、は問い返した。
しかし、リドルは「取り敢えず、中身読んでみたら?」と促すだけだ。
は渋々リドルの言葉に従うことにした。
手紙に一通り目を通してみると、そこにはが想像していなかったこと
が書かれていた。
驚きに目を見開かせるを見て、リドルはにやりと笑みを浮べた。

「で、何て書いてあった?」
「…………好きだ、って……オレ、が」

頬を赤く染め、戸惑ったような視線をリドルに向ける
まさか同性から告白されるとは思っていなかった。
まぁ、彼女達はが女であるとは知らないのだから仕様がない事だが。
しかし、それでも今のにとってはショックな事だった。

「ど、どどどど、どうしよう…………?」
「どうしようって……付き合うつもりなのかい?」
「まさかっ!!」

リドルの問いにありえないと、は首を横に振った。
想像通りの答えに、リドルは「だよね」と相槌を打つ。
そんな二人の様子に、レナルドは不思議そうに首を傾げた。

「なんでだ?今の子、結構可愛かったと思うんだが」

レナルドの言葉に、とリドルは固まった。
そうだ、こいつは知らないんだった、と。

「ば、バカっ!!お前、可愛い子となら誰とでも付き合うのかよっ!!」

焦ったようには言い返した。
その言葉を聞いたレナルドは、一気に赤面して首を振る。

「ち、違うっ!!俺は、その……だから……」

口籠るレナルドを見て、は「しめた」と思った。
このまま押し切ってしまえ、と。

「だろ?やっぱり付き合うなら性格とかよく知ってるヤツじゃないと」
「まぁ……普通は、な」

レナルドはそう言って、ちらりとリドルを見た。
それに気付き、は首を傾げる。
リドルに目を向けてみると、彼は妖艶で含みのある笑みをに送ってきた。
益々の疑問は募る。

「あ?どういう意味だ、それ。リドルは違うのか?」
「…………こいつは来る者拒まずなんだよ。告白されたら名前を知らない子
でも付き合う。まぁ意外にも、二股はかけた事ないけどな」

レナルドの話を聞いて、は自分の中で怒りが湧き上がってくるのを感じた。
なんてヤツだ、とが非難の視線をリドルに向けると、彼は妖艶な笑み
を浮べたまま口を開く。

「今はフリーだよ。安心した?」
「なっ……ちげぇよ!!おまっ……ば、バカだろっ!?」

甘いリドルの微笑みに誘われそうになって、は頬を赤く染めながら頭
を横に振った。
ありえない、と。
同時に先程感じた怒りが、再び沸々と湧き上がってくる。
何故だか解らないが、には目の前のこの飄々とした男がむかついて仕方がなかった。
きっ、と睨みつけて、は椅子から勢いよく立ち上がる。
そしてリドルに人差し指を突きつけてこう言った。

「お前は女の敵だっ!!」

そう言ったの様子を楽しげに見つめるリドル、依然と彼を睨みつける
両者は見詰め合ったまま動かない。
そんな二人を呆れたように見て、レナルドは一言呟いた。

「喧嘩するほど仲が良い……」
「うるさいっ!!」

呟きが耳に入ったに一喝され、レナルドは逃れるように視線を逸らしたのだった。