爽やかな朝のはずだった。



「あれ?今日は機嫌が良いね、シリウス」
「あ、本当だ。昨夜までは牛のような形相だったグハッ!!」

おっと、手が滑ってしまった。
ジェームズの腹に俺の拳が当たってしまったよ、あはははは。
俺の足元で伸びているジェームズを、リーマスが微笑みながら突付いている。

…………足で。


うん。
見なかった事にしよう。
でないと、俺の命が危うい。

「あ、そうだ。シリウスさぁ、今朝部屋にいなかったよね」

奴は、痛いところを適確に突いてくる(笑顔で)。
“リーマス・J・ルーピン”。
敵に回したくない男だ。

「どこに行ってたの?」

にーっこり。
絶対楽しんでる、リーマスは。
こいつはジェームズと違った意味で性質が悪い。
……いや。
ジェームズとも何等違いは無いか。
楽しんでるのは二人とも同じな訳だし。

「あー……トイレ行ってた」
「へー。長いトイレだね」




Melodia 04




相当便の切れが悪かったんだね、と笑顔で言うリーマス。
嘘だと判ってんならストレートに言いやがれってんだコノヤロー。
どうせ奴の事だ。
昨晩俺が部屋から出て行く時、一度眼が覚めたのだろう。
奴は(自称)忍者のように気配に敏感だから。
まぁ、その後すぐに眠りについたのだろうが。
思わず溜息が出る。

「……寝付けなかったんだよ」
「成る程。だから夜の散歩に出掛けたんだね」

どうやら、全てお見通しのようだ。
俺に発信器でも付けていたのだろうか。
クソッ。
疑問符が語尾についてない所が、益々ムカつく。
リーマスに目を向ければ、にこにこと人が良さそうに微笑んでいる。
…………腹では何を考えている事やら。

「その辺ぶらっとして来ただけだ」

俺がそう言うとリーマスは「ふぅん」と意味深に笑い、ソファーで微睡んでいるピー
ターを起こしに行った。
全く、食えない奴だ。
どこまで知っているんだか。

「なに?君ってば僕に内緒で、こっそり寮を出てたのかい?」

キラリ、とジェームズの眼鏡……基、眼が光る。
思わず俺はたじろいだ。
さぁ、洗い浚い吐くんだ!!と眼で圧力をかけてくるジェームズに、俺は必殺技を使
う事にした。
本当はこんな卑怯な真似はしたくないのだが。

「あ、エバンズだ」

女子寮の方向を指差す。
そこにはジェームズの最愛の人、リリー・エバンズが居た。
友人らしき人物達と楽しそうに話をしながら、階段をゆっくり下りて来ている。
え、とジェームズは一瞬固まり、だが次の瞬間には俺が指差した方向へと向く。
単純な奴だ。
俺の思惑通り、奴はエバンズのもとへと飛んで行った。
エバンズ〜vvvv、と語尾に要らぬものを付け。
その隙に、俺は談話室から退室する事にする。
さっさと飯を食って、奴等から逃げなくては。
特にエバンズ大好きな牡鹿は、チーズの様にしつこくて敵わない。
勘が鋭そうなリーマスを警戒しながら、俺は談話室を出た。



+ + + + + +



?」
「ああ」

眉を顰めるエバンズに、俺は真剣に頷いた。
俺達は今、図書室に居た。
あ、別に密会とかではない。
第一、俺はエバンズのような暴力優等生、タイプではない。
だが、タイプじゃないからと言って恋愛対象にならないか、と問われれば、答えは否だ。
しかし、目の前のこの暴力優等生だけは絶対に恋愛対象にはならない。
親友の想い人、というのもあるかもしれないが、一番の理由は俺にとって彼女が姉の
ような存在であるという事だ。
相手がどう思っているかは知らないが。
そんな彼女に、俺は昨夜の少女について知っているか聞いてみた。

「……知ってるわ」
「本当かッ!?」
「こんな事で嘘吐いても、何の得にもならないわ」

得になるのなら嘘を吐くのか、お前は。
平然と宣ふ彼女に、思わずそんな言葉が浮かんだ。
だが、そんな事は如何でも良い。
昨晩の青い瞳の少女を知っている者が身近に居た。
その事実だけで、俺は口元がにやけるのを感じた。

「で、にどんな用事なの?内容によっては、私が貴方達を引き合わせてあげ
ない事もないわ」

にやり、とエバンズは笑う。
絶対に、何かを企んでいる笑みだ。
何故判るかって?
そんなの……リーマスが良からぬ事を企むときの笑みと酷似しているからに決まって
るじゃないか。
目の前のこの暴力優等生と某微笑みのウルフ貴公子は、実の兄弟なんじゃないかと思
わず疑ってしまうほど性質が似ている。
敵に回したくない相手だ。

「…………彼女に、会いたいだけだ」
「あら、それだけ?」

つまんないわね、と言う彼女に怒りを感じる俺は短気な人間でしょうか。
怒りを誤魔化すように、次の言葉を紡ぐ。

「会わせてくれるか、彼女に」
「さぁ……会うか会わないかを決めるのは彼女自身だもの。でも……そうねぇ」

ふふ、と不敵に笑うエバンズ。
嗚呼、これは、絶対に、良くない事を企んでいる。
如何にでもなりやがれってんだコノヤロー。













「条件があるわ、Mr.ブラック」










  



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